足関節後方インピンジメント 症候群

Posterior Ankle Impingement Syndrome(PAIS)

病名・病態

病名:足関節後方インピンジメント

Posterior Ankle Impingement Syndrome (PAIS)

インピンジメントとは「挟まる」という意味であり、病的な骨や軟部組織、または副骨により、足関節に疼痛や可動域制限をきたす障害です。

足関節を底屈する際に疼痛を引き起こす病態を総称して後方インピンジメント症候群

と呼びます。代表的なものが三角骨、距骨後突起のインピンジメントであり、クラシックバレー、サッカー選手(インステップキック)に多くみられ、パフォーマンスを著しく低下させます。

 診断

 足関節痛、可動域制限があった場合、診察、詳しい画像(CT・MRI)にて疼痛の原因を精査します。骨(三角骨)や、軟部組織等がインジンジメントしていても同様の​症状を呈します。

​長母趾屈筋腱 (FHL)のインピンジメントがあり、  親指を曲げて 抵抗をかけると疼痛が誘発されます。

 

 

3 治療方法

 

まずは基本的には保存加療をおこないます。

消炎鎮痛剤内服、運動療法、テーピング固定などの保存加療にて改善しないものを手術の適応とします。

手術療法

観血的手術

​関節鏡視下手術

手術はインピンジメントをおこしている骨、炎症をおこしている滑膜、軟部組織の切除をおこないます。手術の効果は高く、痛み、可動域制限の改善、パフォーマンスの向上を見込めますが、骨、軟部組織を切除することにより、制動効果が低下し、靭帯希望不全の不安定性が増加する可能性があります。切除術後に不安定性を十分に評価し、同時に手術可能な靭帯は修復、再建をします。

麻酔は麻酔科に一任し、全身麻酔、脊椎麻酔下におこないます。

当院では関節鏡下におこないます。関節鏡視下であれば、創部の不快感がすくなく、低侵襲におこなえるため、早期にスポーツ復帰することが可能となります。

術前の検査により、靭帯損傷による不安定性を認める場合には靭帯修復術・再建(別紙参照)も同時に行います。

  • まず関節鏡を挿入します。

足関節後方に外側より生理食塩水を5cc注入します。足関節後方のアキレス腱に沿って内側、外側に5mm程度の切開をします。カメラを挿入し、もう一方から必要な器具(シェーバーなど)を挿入します。後足部は軟部組織で充満しているため、軟部組織、滑膜を切除します。

長拇指屈筋腱を同定し、三角骨を露出させます。三角骨は距骨後突起と線維組織にて強固にくっついているため、はがしていきます。三角骨は基本的に一塊となるように摘出します。

三角骨のみが原因という例は少なく、距骨後突起、腱鞘、滑膜炎等の処置をおこないます。遊離体(通称:関節ねずみ)を認める場合は、摘出します。インピンジメントの原因でなく、関節外、他の組織に損傷を与える場合は、あえて処置をしないこともあります。関節鏡、レントゲンにて十分に切除されていることを確認して手術終了となります。

レントゲンで確認後、足関節の不安定性を評価します。不安定性を認める場合は、靭帯等に処置をする可能性もあります。

※術中撮影した画像や採取した組織につきましては、患者様の同意の上今後の研究等に使用させていただきます。その際個人情報の取扱につきましては、大学・病院の規定に則り適正に管理いたします。

 

 

術後経過:

術後、下記の表の流れでおこないます。底屈動作を制限し早期に可動域訓練を開始し、荷重は翌日(初回包交)よりおこないます。抜糸は7-10日前後。ジョギングは1か月後を目安に開始し、6-8週の復帰をめざしリハビリを行っていきます。

※個々の症例によって、後療法は変更する場合があります。

この手術の危険性とその発生率

□ 感染 (重篤な場合は、金属の抜去が必要になることがあります):手術創が感染する可能性があります(約1%)。特に糖尿病や悪性腫瘍のある方、高齢者の方は免疫力が弱いために感染の確率が高くなります。免疫抑制剤使用中の方も同様です。金属を用いた手術では金属を使用しない手術に比べて感染の可能性が高いという報告があります。金属使用手術後に深部感染が起きた場合には金属固定材料の抜去、感染病巣掻破、持続潅流、創部の開放療法など、多種類、多数回の手術を余儀なくされることがあり、入院治療が長期化します。また、菌がMRSAなどの多剤耐性菌の場合は、抗菌薬がほとんど効かないため、この場合も長期間の入院治療が必要になります。敗血症になると致命的な経過をたどる場合があります。

□ 関節拘縮:足関節に生理食塩水により関節を膨らませ手術します。手術により侵襲のあたえること、安静にすることにより、関節拘縮がおこる可能性があります。早期のリハビリテーションが重要となります。

□ 痛みの残存:患部に人為的な侵襲を加えるため、違和感や疼痛が残存することがあります。中には切開した部位がケロイド状に瘢痕形成しやすい方もいます。

□ 神経・血管損傷:手術操作のために神経・血管をよけて操作します。しかし、個々で神経の走行が違う場合があり、手術操作により牽引、癒着することにより、手術前には認められなかった知覚障害、しびれ、出血、運動麻痺などの症状が出現することがあります。基本的には一時的なもので改善しますが、そのような症状が永続して残存する場合もあります。重症の場合は再建手術を要する場合があります。本手術では浅腓骨神経領域のしびれが起こる可能性があります。

□ 深部静脈血栓症・肺梗塞・脂肪塞栓:外傷、安静臥床等による血流の停滞により、下肢の血管に血栓が生じる可能性があります(10-20%程度)。 血栓(脂肪)が肺に飛んで詰まると肺梗塞の状態に陥り、呼吸不全となり、重症の場合には致命的な経過をたどる場合があります(0.3%)。その他、脳や心臓の血管に血栓や脂肪が飛んで詰まると致命的になります。

□ インプラントの破損・インプラントによる周囲組織への悪影響:捜査している器具や、アンカーを挿入する際に用いる金属が破損し、関節内、骨内に残る可能性が稀にあります。基本的には摘出しますが、人体に影響がないことがほとんどであり、侵襲が高度であれば摘出しない可能性があります。

□ コンパートメント症候群:手術による軟部組織の損傷により下腿のコンパート内圧が上昇し、血管・神経が圧迫され、神経麻痺、血行障害が起こることがあります。緊急手術で筋膜切開が必要になることがあります。

□ 複合性局所疼痛症候群Complex regional pain syndrome(CRPS):慢性的な痛みと浮腫、皮膚温の異常、発汗異常などの症状を伴う難治性の慢性疼痛症候群をさします。手術のみでなく、骨折、捻挫、打撲などをきっかけとして生じることがあり、その原因やメカニズムはまだ十分に解明されていません。

□ その他:予期できない偶発症・合併症が発生する可能性があります。

 

5 偶発症発生時の対応

手術中および手術後に偶発症が起きた場合には、最善の処置を行います。(なおその際の医療は通常の保険診療となります。)

 

6 代替可能な治療

保存治療:装具による固定療法、スポーツ休止しリハビリによりスポーツ復帰を目指します。

 

7 手術を行わなかった場合に予想される経過

不安定性が残存している状態では変形性足関節症に進行する場合があります。